一方のアンドレアスの心中はというと、 いささか拍子抜けといったところであった。 実際のところ実戦行きを師から命じられてからというもの、 死への恐怖と殺人行為への畏怖、 それらの不安や緊張でほとんど眠れなかったくらいであった。 そして、実戦である。 出来ることなら敵が現れませんようにと願ったが、 敵はすぐに発見された。 出来ることならこちらが追い付けませんようにと願ったが、 追い付くこともすぐに出来た。 敵の必至な回避運動にもかかわらず、 ピッタリ6時方向に貼りつけられた。 心は人の命を奪う戦闘を拒否しつつ、 身体はまるで正反対の戦闘マシーンのように速く正確であった。 出来ることならこのミサイルで人を殺したくはないと願ったが、 即座にロックオン&ファイヤ。 その時だった、敵の Mig-21 の搭乗席が射出されたのは。 敵は懸命に回避行動を取ってもアンドレアスを振り切れないことと、 彼の乗っている機体がタイガー II ではなくタイガーシャークであることと、 ( 単発エンジンであったことと、機体のダッシュ力で即座に判明 ) 何よりロックオンアラートが鳴り、ミサイルが発射されたことで、 彼、 Migドライバーは 完全に見切った。 こりゃヤベェ、と。 国家を、愛する人を守る戦いでもない、 こんなチンケな金儲けで命を落とすこたぁねぇ、と。 そのことが、この戦闘地域のロートルパイロット達と、 アンドレアスの良心をも救うことになることまではさすがに見切れはしなかったが。 |